スポンサーリンク

第1話『ランタ島に渡る』 all around the world

ランタ島行きのミニバン 未分類
テキスト本文朗読 by Amazon Polly

バンコクから夜通し走り続けてきたバスが、最終目的地であるクラビバスターミナルに停車した。どうやら予定時刻より1時間ほど早い到着らしい。この旅では、私は日程や行き先を決める一切の話し合いに参加しなかった。だから、どのような道程を辿ってランタ島へと向かうのか、全く何も知らない状態でいる。さきほど、1時間ほど早い到着らしいと書いたのも、何時に到着の予定かさえ知らなかったバスが、この時間に着いたという事実に対して、その早いあるいは遅いを判断する材料を持ち合わせていなかったからである。

ひとかたまりの団体で旅行する場合には、先頭と最後尾にそれぞれの楽しみ方があるように思う。先頭は旅のあらゆる事柄について考えを巡らせて、可能な限り綿密な計画によって旅の成功を祈りつつも、想定外に発生したハプニングに対して臨機応変に対応するという楽しみ方である。一方、最後尾はと言うと、この先に何が待っているのか、このあと何時にどこへ行かなければならないのかなどの心配事をせずに、ただ目の前に起こっている出来事に対して自分なりのリアクションをするという楽しみ方になる。

いま、クラビバスターミナルに到着した私たちは、ランタ島へと向かうミニバンを待っている。タイ語ではロットゥ―と呼ぶミニバンは、タイ各地の観光地などには必ずある乗り合いのワゴン車である。大型の夜行バスによってバンコクから大量輸送されてきた乗客たちが、今度はランタ島に向かうグループへと小分けされて配送されるという仕組みだ。ただ、私が気がかりなのは、ランタ島というからには島を目指しているのにも関わらず、どうして乗り物がワゴン車なのかということだ。

目の前で行われていることを観察しながら導き出した可能性は、ふたつある。まず1つ目は、ランタ島行きのワゴン車と便宜上は呼んでいるものの、実際にはランタ島に向かうボートが停泊する船着き場まで運んでくれるワゴン車であるというもの。そして2つ目は、ランタ島にかかる橋があるのではないかというもの。これまでの私の経験では、船着き場に到着するという可能性が高いのだけれども、さきほどワゴン車の運転手がランタ島内の宿泊予定のホテルの名前を質問してきたことが、どうも腑に落ちない。船着き場まで送り届ける係である運転手には、乗客がその先、どこのホテルに泊まろうが知ったことではないからだ。

乗客たちがトイレで用を足すのを待って、ワゴン車がバスターミナルを出発した。ふたつの可能性のうちのどちらが正解であるのか、いよいよ答え合わせの時を迎える。さて、目の前に現れるのは橋なのか、船着き場なのか。こんな風にワクワクしながらフロントガラスの先を凝視していたのだが、ワゴン車はクラビ国際空港の敷地内へと入っていく。もちろん、ここから飛行機に乗り換えてランタ島を目指すわけではない。バンコクから飛行機で到着した旅行者たち3名を乗せると、すぐに空港を離れた。

それから20分ほど、綺麗に並んだヤシやゴムの木のプランテーションの間を抜けて、ワゴン車は真っすぐな道を突き進んだ。ロットゥーの運転手は1日に何度のピストン輸送ができるかで収入が変動する成果報酬のため、とにかく運転が荒いプロのスピード狂である。このまま海の上を走ってランタ島まで行ってしまうのではないかというワゴン車の勢いは、渋滞によって止められた。

渋滞の先には、きらきらと光る海面が見える。私が乗っているワゴン車と同じようなトヨタのハイエースのほか、一般の乗用車も混ざっている車列は、岸壁の脇にある駐車場のようなスペースに吸い込まれていく。どうやら、まだ船の姿は見えないけれども、ここでワゴン車を降りてランタ島へと向かうボートに乗り換えるようである。前の車両との車間距離が十数センチというギュウギュウ詰めの状態で駐車したところで、運転手が乗客たちに車から降りるように指示した。だが、荷物は持たなくて良いとも言っている。

次の瞬間、私は全てを理解した。ワゴン車や乗用車など15台ほどと、スクーターが10台ほどが停められている駐車場が、それらの乗客50名ほどを乗せたままで動き始めたのである。ただの真っ平な板のような物体が、そのまま海上を航行していく。良く見れば、駐車場のひとつの隅に監視棟のようなものがある。どうやら、あの棟が操縦室だ。大きなエンジン音が聞こえてくるものの、どのようにスクリューが配置されているのかは乗客である私には分からない。ただ、マングローブの生い茂る陸地が流れていくのを見る限り、間違いなくこの駐車場はランタ島へと向かって前進している。

航行時間は、おそらく15分ほど。ランタ島が近づいてくると運転手が乗客たちに車に戻るように促した。ワゴン車は方向転換をすることもなく、入ってきたのとは逆側から駐車場を出て、ランタ島の道路をホテルに向かって走り始めた。

 

第2話『ランタ ダラワディー リゾート』へ続く。

コメント